こんにちは。司法書士の片岡和子です。
暖かい室内に取り込んだヒヤシンスは、ぐんぐん生長して、あっという間に満開になりました。
部屋の中は甘い香りでいっぱいです。
さて、今日も相続のお話です。
自分の死後の紛争を避けるため、自筆で遺言書を作成して相続人のうちの一人に預けておく、というのは、よくあることです。
遺言を書いた本人は、
「これで大丈夫。」
と肩の荷を下ろした気分になることでしょう。
でも、自分の死後、その遺言書がどのように取り扱われ、自分の希望した内容がどのように実現されるのか、ということについては考えていない方が多いように思います。
遺言を預かった側も、
「わかった。ちゃんと預かるから心配いらないよ。」
なんて言ったりするのでしょう。
で、いざご本人が亡くなると、何をどうすればよいのか、さっぱりわからない。
預かった遺言書を開封して他の相続人に見せて、
「これが親父の遺志なんだから、このとおりにしよう。みんな、納得してくれるよな?」
と、合意を取り付けようと試みる・・・なんていうトンチンカンな展開になったりします。
遺言をした方も、預かった方も「遺言」の持つ力を理解していないのですね。
実は、遺言の持つ本当の力は、
「きちんと作成された遺言書があれば、他の相続人の協力がなくても、直接、相続の手続きができる」
というところにあるのです。
亡くなった夫が、自分の死後の妻の生活を心配して、
「東京都〇○区○○三丁目45番6の土地は妻に相続させる」
という遺言をしていたとしましょう。
この遺言書を添付して法務局に申請すれば、土地の名義を妻のものとすることができます。
欲深い子供たちがあれやこれやと文句を言っても、妻は一人で名義変更をすることができるのです。
もちろん、押印がなかったり日付がなかったり、どこの土地のことなのか特定できなかったり、といった問題がある場合はダメです。
きちんとした遺言書であることが前提です。
それに加えて「検認」の手続きが必要です。
自筆の遺言書は、家庭裁判所で「検認」をしてもらって初めて、実際の相続の手続きに使えるようになるのです。
ですから、自筆の遺言書を預かっている人は、何はともあれ検認の手続をしなくてはいけません。
封をしてある遺言書は開封してはいけません。
家庭裁判所での検認の場で開封することになっているからです。
どこの家庭裁判所に検認の申立てをするのか、というと、被相続人の死亡当時の住所地を管轄する家庭裁判所です。
たとえば、亡くなった方の住民票が東京23区にあれば、東京家庭裁判所本庁、ということになります。
東京家庭裁判所のホームページを見れば、申立ての方法や必要書類がわかります。
その他の家庭裁判所でも、ホームページに案内があったり、相談窓口が設けてあったり、何らかの形で情報提供がなされているはずです。
ここまで、ご理解いただけましたでしょうか?
ここで気になるのは、
「他の相続人たちへの対応はどうすればよいのか?」
ということですよね。
遺言書を預かってる、と告げて、他の相続人たちから
「見せろ」
と迫られた場合には、
「家庭裁判所で検認の手続きをすることが法律で決まっている。
勝手に開封することは禁じられている。」
と説明する必要があります。
「じゃあ、俺たちは中身が見れないってことか!」
などと興奮されてしまった場合には、
「相続人全員には家庭裁判所から検認の期日の連絡が行くから、検認に出席してくれれば遺言の内容を見ることができる。
その日に出席できなくても、後日家庭裁判所に申請すれば遺言書検認調書謄本というものをもらえるので大丈夫。」
と説明すればよいのです。
ここで一点、大切なことの確認です。
今日のお話は、自筆の遺言の場合のお話です。
公正証書遺言では検認の手続きは必要ありません。
この点は公正証書遺言のメリットです。
でも、事情によっては、自筆で遺言をしたい場合もあるでしょう。
その場合には、遺言する側も預かる側も、
「死後、どんな手続きが必要になるのか。どう対応すればよいのか。」
を十分に理解し、心づもりをしておく必要があると思います。
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