認知症独居高齢者の在宅生活の限界について考えてみた。

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こんにちは。司法書士の片岡和子です。

わが家のガーデンは、現在、花が少なくて、緑っぽ~い雰囲気になってます。

8月の日照不足のせいか、みんな徒長気味でした。

ポーチュラカがモヤシみたいになってしまったり・・・。

そこで、思い切って、切り戻しを決行。

天候には逆らえません。

ひとまずサイズダウンして再びのチャンスを待つ、という姿勢です。

 

さて。

今日は、一人暮らしの認知症のケースのお話です。

認知症を発症すると、脳の働きの低下と身体の働きの低下にズレが生じる局面があります。

お金の管理ができなくなっているけれど体は動く、といった状態です。

どんなことが起きるかというと・・・

通帳を持たずに銀行の窓口へ出向き、

「私のお金、おろしたいの。」

通帳と印鑑が必要だと窓口の人が説明しても、何だか話が噛み合わず。

窓口の人は困ってしまいます。

来店したご本人も混乱してしまい・・・

課長が出てくる、支店長も出てくる・・・

という騒ぎになってしまったりします。

ひとつ、事例をお読みください。

(私の経験した事例そのものではありません。アレンジしてあります。)

 

【Aさんの事例】

84才男性。一人暮らし。

結婚歴はなく、子もいない。

ゴミの出し方についての近隣からの苦情がきっかけで、地域包括支援センターの社会福祉士BがAさんの見守りを開始した。

Bは時間をかけてAさんと顔なじみになり、ある日、自宅に入れてもらうことが出来た。

そして、たくさんの請求書や督促状を発見した。

Bの奔走によりAさんは病院を受診し、認知症の診断を受けた。

さらなるBの奔走によりAさんは成年後見制度を利用することになり、司法書士CがAさんの成年後見人に就任した。

Cは早速Aさんの財産調査を行い、支払うべきものは支払い、ほどなくAさんの財産管理は軌道に乗った。

CはケアマネDと契約をし、介護サービスの利用も始まった。

自宅でうまく入浴ができないAさんは、週に2回デイサービスに通い、そこで入浴もできるようになった。

Aさんの在宅独居生活は順調に思えた。

ある日、Aさんはデイサービス施設から抜け出そうとした。

デイサービスの管理者Eは、慌ててAさんを引き留めた。

Aさんが

「俺は幼稚園児じゃない! 何でこんなところにいなくちゃならないんだ!」

と怒鳴ったため、職員が数人がかりでAさんをなだめた。

そんなことが繰り返されて、デイサービスでは他の利用者への対応が手薄になってしまい、ある日、転倒事故が起こった。

EはケアマネDと後見人Cに対して

「うちでは、これ以上Aさんを受け入れることはできません。」

と申し入れた。

Dは、Aさんを受け入れてくれる他のデイサービスを探し始めたが、なかなか見つからない状況が続いた。

一方、Aさんは

「通帳を盗られた!」

と言うようになった。

訪問介護に来ているヘルパーたちは、その都度

「通帳は後見人のC先生が預かっているので大丈夫ですよ。」

と説明したが、Aさんは納得しない。

ある日、Aさんは近くの交番へ駆け込んだ。

要領を得ないAさんへの対応に困った警察官は、地域包括支援センターに連絡した。

電話を受けたBは

「Aさんに代わってください。」

と告げた。

AさんはBに

「通帳を盗られた!」

と訴えた。

Bは辛抱強くAさんの話を聴き、1時間ほどでAさんは落ち着き、帰宅した。

翌日から、毎日同じことが繰り返されるようになり、地域包括支援センターでは、業務に支障が出始めた。

BはCとDを呼び出して会議を開いた。

B:Aさんの在宅独居生活は破たん寸前です。施設入所を考えてみてはどうかと。

C:Aさんは住み慣れた自宅での生活を望んでいます。簡単に「施設」だなんて!

D:Aさんを受け入れてくれるデイサービスはまだ見つかりません・・・。

C:そこを何とか探すのがケアマネでしょう?

D:そう言われても・・・。

B:デイサービスは他の利用者さんの安全も考えなくてはなりませんから。

C:じゃあ、Aさんの人間としての尊厳はどうなるんですか?

B:それは・・・

 

いかがでしょうか。

難しい問題です。

「Aさんの意思の尊重」や「人間としての尊厳」だけで解決できる場面ではない、ということは、何となく感じていただけると思います。

何か他にも、考え方の基準が必要になる場面なのではないでしょうか。

例えば、「社会資源」の問題として考えてみる。

介護保険を利用したデイサービスも、地域包括支援センターも、「高齢者の生活や安全を守るための社会資源」であると言えます。

Aさんの希望をかなえることは尊いことかもしれませんが、それは同時に「貴重な資源をAさん一人につぎ込む」ことにもなり得ます。

そうなってしまうと、それはもう「社会」資源とは呼べない、とも言えますよね。

他にも「考え方の基準」はいろいろとあるでしょう。

大切なのは、ひとつの価値観だけで判断せず、いろいろな切り口から複眼的に考えてみることだと思います。

 

 

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2017年9月2日 | カテゴリー : 成年後見 | 投稿者 : Kazuko Kataoka