こんにちは。司法書士の片岡和子です。
東急大井町線の尾山台と九品仏の中間地点あたりで開業してます。
さて、このブログでは法律の条文をお示ししてお話することは、めったにないのですが、今日はめずらしく条文を引いてみます。
民法963条です。
「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」
と書いてあります。
で、この条文の中の「能力」っていったい何?
ということなのですが、「意思能力」のことだと考えられています。
それで、「意思能力」って何?
ということですが、
「法的行為を行う能力のこと。自分の行うことの結果を予測し、判断できることが必要である。」
と考えるのがわかりやすいかな、と思います。
この「意思能力」は、「あるか、ないか」という絶対的なものではありません。
場面ごとに相対的に判断されるものなのです。
判断能力が低下して、認知症と診断されたとしても、それは「意思能力がなくなった」ということとイコールではありません。
自宅の改装工事の見積もりを検討して契約する、というような難しいことができなくなったとしても、コンビニで買い物をすることができるとすれば、その人は
「リフォーム工事契約をする意思能力はないけれど、日常の買い物をする意思能力はある」
ということになります。
ここで、もういちど民法963条を見てみましょう。
「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」
でしたよね。
言い換えれば、
「遺言者は、遺言をする時点で、自分の遺言の内容を理解し、それによってどのような結果になるのかをわかっていなければならない。」
ということです。
認知症であっても、ある程度の判断能力があれば遺言はできる、ということです。
そして、この「ある程度」もまた、絶対的な基準があるわけではなく、相対的に判断します。
妻と3人の子がいて、日頃から、
「自分の死後の妻の生活のため、財産は全部妻に残したい」
という発言をしていた人が
「財産はすべて妻に相続させる。」
という遺言をした場合には、
「自分の遺言の内容を理解し、遺言の結果がどうなるかをわかっていた」
と言え、認知症であっても遺言をする能力があった、と考えるのがふつうでしょう。
同じ状況の人が妻のことには何も触れずに、
「子供たちのうちの一人だけに全財産を相続させる」
という遺言をしたならば、それは、遺言をした時点で、
家族構成についての記憶があいまいになっていたのかもしれないし、
そのような遺言の結果、妻がどのような状態に置かれてしまうか、ということを理解できなくなっていたのかもしれないし、
いずれにせよ、意思能力がなかったと判断される可能性が高いでしょう。
ここで、今日のタイトル
「認知症の人は遺言できる?」
に対する答えですが、
「その時の本人の状態や、遺言の内容により、一概には言えない。」
です。
一刀両断のスッキリしたお答えができなくてごめんなさい。
でも、そういうものなんです。
そして、まさに、この「場合による」ということが、後日の紛争が多いことの理由でもあるんです。
ご本人が亡くなったあと、遺言の内容に不審を感じた相続人が
「遺言当時、本人には意思能力がなかったので、遺言は無効である」
と主張する、ということが起こるのです。
それで、この紛争を避けるため、遺言作成を援助する依頼を受けた弁護士さんなどは、
遺言時の状況をビデオで撮影したり、
医師の診断書を取得したり、
という工夫をするんです。
さて、最後に大切なことを補足しておきます。
成年後見制度を利用している「成年被後見人」が遺言をする場合は、医師2人以上の立会いなどの条件が必要になります。
これについては、また機会があったら書きますね。
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