スムーズな相続のために⑨ 相続人の中に認知症の人がいる場合

DSC05331

こんにちは。司法書士の片岡和子です。

写真はサフィニアです。

2月の極寒にやられて、もうダメかなあ、という感じだったのですが、かすかに生き残っている様子でした。

枯れてしまった部分を取り除いて経過観察。

そしたら新芽が出て来たんです。

植物は強い! 見習わなくっちゃ。

 

さて、今日も相続のお話です。

遺産分けの話し合いのことを「遺産分割協議」と言います。

この遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。

相続人のうちの一部の人間だけで「適当に決めてしまおう」なんてことは許されません。

疎遠になってしまっている人がいても、何とか連絡を取って、協議に参加してもらわなければならないのです。

気を付けなければいけないのは、「全員揃っていればそれでOK」とは限らない、ということ。

遺産分割協議の参加者全員に「遺産分割協議の内容を理解する力」がなければいけません。

遺産分割の結果、自分が得をするのか損をするのか、何が何だかわからないまま署名してハンコを押した、というのでは、「話し合いがまとまった」とは言えません。

典型的なのが認知症の方の場合。

かなり進んだ認知症で、「自分の夫(妻)が亡くなった」ということが理解できていない状態では、「遺産分けをする」ということも理解できないでしょう。

それほど進んだ認知症ではなくて、「夫(妻)が亡くなった」ということが理解できていたとしても、「遺産分割協議」の意味が理解できないのであれば、きちんとした判断をすることはできないでしょう。

このような状態で、他の相続人たちが、「みんなで適当に決めてしまおう」ということで、理解できていない認知症の人に署名させてしまう、または代筆で遺産分割協議書を作ってしまう、なんていうことをやってしまうと、後日のトラブル必発です。

では、どうすればよいのか。

まず考えられるのは「遺産分割の先延ばし」です。

認知症の方がかなりの高齢である場合などには、あえて遺産分割をせずに、次の世代へ持ち越す、というのもアリです。

でも、そうはいかない場合もあるでしょう。

その場合には、「認知症の人に代わって遺産分割協議を行う人(=代理人)」を定める必要があります。

認知症の方ご本人が代理人を定めることはできませんから、公的な手続きを利用して代理人を決めてもらうことになります。

これが「成年後見」の制度です。

家庭裁判所で「成年後見人」を選任してもらうのです。

(認知症の程度によって後見・保佐・補助という3類型があるのですが、話がややこしくなるので、ここからは「後見」の話に絞ります。)

ご家族の中には、

「それだったら自分が成年後見人になる。それで万事OKだろう。」

と考える方がいらっしゃいますが、実は、そう単純な話ではありません。

成年後見人を選任するのは家庭裁判所です。

「自分が後見人になりたい」という希望が通るとは限らないのです。

親族間に紛争がある場合には、第三者の専門職(弁護士・司法書士など)が選任されます。

紛争がなくても、財産の内容が複雑であったり、後見人になりたい人の事務処理能力に問題がある場合には専門職が選任されることがあります。

特に問題がなく、家族が後見人に選任された場合でも、思いがけない展開になることがあります。

後見人なのだから自由な裁量で遺産分割協議ができる、と思っていたら、家庭裁判所から

「被後見人の取り分は最低でも法定相続分を確保するように」

といったダメ出しを受けてしまった・・・

遺産分割協議のために成年後見制度を利用するのだから、遺産分割が終わったら制度の利用を終了すればよい、と思っていたのに、それは出来ないのだとわかった。

1円単位まで厳密に財産管理をして、報告書を作成して、毎年毎年、家庭裁判所に提出しなければならない・・・

え~、そんなに面倒なの? と思われましたでしょうか。

でも面倒なのは当たり前です。

判断能力のない方に代わって遺産分割協議や財産管理をするのです。

本人に不利な遺産分割協議がなされていないか、きちんとした財産管理が行われているか、ご本人が監視することは出来ないのです。

ですから、家庭裁判所が監督をするのです。

この監督の仕組みがなければ、認知症の方の財産は食いものにされてしまいます。

繰り返しておきます。

成年後見制度の利用が面倒なのは当然なのです。

ご本人を守るための制度であって、家族の便宜のための制度ではないのですから。

このことは、しっかりと理解しておく必要があります。

相続が発生して相続人の中に認知症の人がいる場合、成年後見制度の利用を検討することになりますが、その際には、この制度のことを十分に理解しておかなければなりません。

かなりの量の勉強が必要になると思います。

どこで勉強をすればよいか、というと、東京の場合には、東京家庭裁判所のホームページの中に「後見サイト」というのがありますので、これをじっくりと読むとよいです。

東京以外でも、各家庭裁判所それぞれにホームページなどに案内があると思います。

ネット上の情報は玉石混交です。

いろいろな人が、いろいろな立場で、いろいろなことを書いています。

それらに惑わされす、まずは、家庭裁判所が発信している情報をきちんと理解する。

これが一番です。

 

以上、参考になりましたら幸いです。

 

 

☆こちらの記事も読んでみてね☆

★成年後見制度は相続争いと結びついてしまうこともある。

★成年後見制度の利用を完全に確実に回避する方法は・・・ない。

★成年後見人はなぜ相続税対策ができないのか

★【遺産分割】後見監督人がいる場合、特別代理人は不要。

 

 

2018年3月18日 | カテゴリー : 相続・遺言 | 投稿者 : Kazuko Kataoka