こんにちは。司法書士の片岡和子です。
昨年の母の日にもらったアジサイ。
剪定して冬を越して、ちいさな花芽がついてます。
開花が楽しみです♪
さて、今日は成年後見の話題です。
タイトルへの答え、最初に書いてしまいましょう。
私は「後見人や保佐人に就任したら必ず銀行等の金融機関へ届出をしなくてはならない」とは考えていませんが、銀行の側からすれば「届出してもらわなければ困る」ということで、この問題は難しすぎて結論が出せません。
・・・って、答えになってないですよねえ。
本当に難しい問題なのです。
以前に私が経験したケースについて読んでみてください。
(実際にあった案件そのものではありません。複数の案件を組み合わせて再構成してあります。)
Aさんは物忘れがひどくなり、生活に支障が出てきました。
一人暮らしなのでサポートしてくれる人はいません。
役所などから送られてくる書類がうまく処理できずに溜まっています。
保険証などの紛失も多発します。
たまに様子を見に来る姪が心配して、成年後見制度を利用しようと思い立ちました。
病院で診察を受けたところ、認知症と診断されました。
医師の意見は「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」とのこと。
成年後見の類型でいうと「保佐」に相当する状態です。
そこで姪は保佐開始申立てを行い、それが認められて、保佐人として司法書士Kが選任されました。
KはAさんに会いに行き、その結果いろいろなことがわかり、さっそく活動を開始しました。
各種書類はKの事務所へ直接送られてくるよう手配しました。
日常の買い物はご自身で出来ています。
預金口座はB銀行にあって、キャッシュカードの暗証番号も覚えていて、必要なお金は自分で引き出しているとのこと。
今のところ、この面でのサポートは必要ないかな、と思うKでしたが、心配なこともあります。
誰かに言いくるめられて要らないものを買ってしまうかもしれない・・・
いや、Aさんお金にはきっちりしてる方みたいだから、あまり心配はないか・・・
でも、認知症が進行したらカードの使い方がわからなくなって、お金がおろせなくなるかもしれない・・・
それに、保佐人としてはAさんの家計の状況を把握しておきたい・・・
でも警戒心の強いAさんは、会ったばかりの自分に通帳を見せてくださらないし・・・
いろいろと考えたKは、預金口座の管理はご本人に任せつつ自分もモニターをし、問題が起きた時に備えておこう、と結論を出しました。
そしてB銀行へ出向きました。
以下はKと窓口の銀行員の会話です。
「私はAさんの保佐人になりました。取引は引き続きご本人が行うのですが、私も状況を把握しておきたいので、残高証明書と取引明細書を発行していただきたいのです。私には銀行取引の代理権が付与されていますので、各種証明書の発行依頼もできますよね?」
「はい、承知しました。それではまずは保佐人の届出をお願いします。登記事項証明書はお持ちですね。では、こちらの書類にご記入ください。」
「はい。」
「保佐人の届出をされますと、現在お使いのキャッシュカードは使えなくなりますので、ご了承下さい。」
「え・・・えっ?? Aさんがカードでお金をおろせなくなる、ってことですか?」
「はい、そうです。そのような扱いになっております。」
「いや・・・それでは困ります・・・それなら、保佐人の届出は見送ります。」
「いえ、それはできません。保佐人になられたら必ず届出をしていただく必要があります。」
「・・・・・(絶句)。。。」
いかがでしょう。
とても大きな問題が存在するのだなあ、と感じていただけましたでしょうか。
Kも銀行側も、言いたいことは山ほどある状態です。
Kの言い分としては「保佐人に代理権が付与されているからといって、常に代理をしなければならない訳ではない。ご本人の自律を尊重しながら、必要に応じてサポートしていけばよい。代理権を行使しないのであれば銀行への届出も不要。もしもマズい状況が発生したら、保佐人として取消権を行使すればよい。」といったところでしょう。
銀行の考えは「保佐人がついたということは、いつ何時取消権が行使されるかわからない、ということ。知らない間にトラブルに巻き込まれたら困る。保佐開始の事実はきちんと把握しておく必要がある。必ず届出をしていただきたい。代理権が付与されているのならば取引は全て保佐人に行って欲しい、というのが本音だが、そういう訳にもいかないだろう。本人が取引を行うのであれば、その都度保佐人の同意を求め、後日取り消しがなされないようにしておきたい。キャッシュカードの利用では保佐人の同意が確認できないため、キャッシュカードの利用は一律に停止としよう。」という感じでしょうか。
どちらが正しい、という問題ではありません。
どちらも自分の職務を適正に遂行したい、というだけのことです。
成年後見人や保佐人として活動する側からすると、金融機関の対応は「硬直的」と感じられることが多いです。
もっと柔軟に、個別の事情に応じて・・・と求めたくなります。
でも・・・金融業は商売です。
銀行は社会インフラ的な面もありますが、儲けを出さなければ存続できませんよね。
効率的に業務を行うためにマニュアルを整備して、IT化を進めて・・・企業としてはアタリマエのことです。
冒頭に書いたとおり、この問題には正解がなくて、答えは出ないと思います。
で、K(もちろん私のこと)はどうしたかというと・・・
いろんな経験を経た後、「場合によっては届出はしないでおく。届出をしない場合には最初から全く銀行とは接触しない」という選択肢を身につけました。
スジが通っていませんし、根本的な解決にはなっていませんが。
実際に何か問題が勃発したら・・・その時は改めて深く考えてみようと思っています。
☆こちらの記事も読んでみてね☆
★成年後見制度の利用を完全に確実に回避する方法は・・・ない。
★保佐人にはもれなく同意権がついてくる。アタリマエなので登記事項証明書には記載されない。