【ネタバレ注意】「Wの悲劇」に見る相続欠格

こんにちは。司法書士の片岡和子です。

事務所近くの遊歩道のアジサイ。

花芽がちいさく顔をのぞかせてます。

大好きなアジサイの季節はもうすぐ♪

 

さて。

ふと思い立って、夏樹静子の「Wの悲劇」を読みました。

ものすごく久しぶりです。

前回読んだのは、法律の勉強を始める前のことでした。

なのでその時は、重要な役割を果たしている「相続欠格」の制度について、きちんと理解せずにアバウトに読んでいた記憶があります。

今回はもちろん、理解はバッチリ。

で、犯人の思考回路を再現しつつ、民法の条文なんかも紹介してみようかな、と。

 

思いっきりネタバレになりますので、くれぐれもご注意くださいませ。

 

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何としても和辻与兵衛の財産、そして与兵衛の会社の支配権が欲しい!

自分の研究を完成させて事業として成功させるためだ。

妻・淑枝は与兵衛の姪で、推定相続人である。

そして淑枝は一途に自分に尽くしてくれる女である。

淑枝が相続すれば、財産は自分のものになったも同然。

けれど与兵衛は66歳、まだまだ死にそうにない。

だったら殺してしまえ!

しかし、自分が犯人として捕まってしまっては意味がない。

淑枝なら自分の身代わりになってくれるのではないか?

いや、問題がある。

民法には「相続欠格」の規定がある。

第891条だ。

 

民法第891条

次に掲げる者は、相続人となることができない。

 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

 

「故意に被相続人を死亡するに至らせたために、刑に処せられた者は、相続人となることができない」と言っている。

「与兵衛を殺したのは淑枝」ということにすると、淑枝は相続権を失ってしまう、ということだ。

それでは意味がない。

何でこんな規定があるんだ?

いやいや、そりゃそうだろう。

被相続人を殺しておいて遺産を受け取るなんて、認められられないのはアタリマエだろうな。

誰か他に身代わりになってくれる者はいるか?

いるワケないか。

いや、淑子の連れ子の摩子は?

オレの身代わりにはならないだろうが、母親を救うためには身代わりになるのではないか?

「与兵衛を殺したのは母だ」と摩子に信じ込ませれば、摩子は「自分が殺しました」と言うのではないだろうか?

いけるのではないか?

しかし・・・

うまくいったところで、与兵衛の姪である淑枝の取り分は少ない。

遺産の4分の3は与兵衛の妻が相続することになる。

残りの4分の1を淑枝と他の相続人たちで分け合うことになるのだ。

それでは自分の目的は達せられない。

何とか淑枝以外の相続人を相続から外す方法はないか?

そうだ、民法891条には続きがある!

 

民法第891条

次に掲げる者は、相続人となることができない。

1 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

 

「被相続人が殺されたことを知りながら告発や告訴をしなかった者は相続から外される」ということだ。

摩子は親族皆から愛されている。

推定相続人全員が集まった場で与兵衛が死に、摩子が「私が殺しました」と言えば、皆で事件を隠蔽しようとするのではないか?

いや、そう簡単にはいかないか。

かなり強く「摩子を守る」という動機づけが必要になるだろうな。

例えば、与兵衛が卑劣にも摩子を襲おうとした、といったあたりか。

それならば、与兵衛の妻も「一族の不祥事を隠して名誉を守る」ということで隠蔽に協力するかもしれない。

うまくいけば、全員が相続権を失うことになる。

しかし、そうすると淑枝も相続欠格になってしまうが・・・

いや待て、891条をもっとしっかり読むんだ!

 

民法第891条

次に掲げる者は、相続人となることができない。

1 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

 

「事件を隠蔽したとしても、殺害者が自分の直系血族であったときは、相続権は失われない」と言っている。

摩子は淑枝の娘、つまり直系血族であるから、この規定が適用されるはずだ。

我が子をかばって事件を隠蔽するのは当然の行動だ、という考え方なのだろうか。

それゆえ責めることはできず、ペナルティは科されない、という趣旨なのだろうか。

何にせよ、この規定がある以上、淑枝だけは相続欠格にはならずに済む。

全ての遺産を淑枝が受け取ることになる。

もちろん会社の支配権も淑枝のものだ。

つまりは夫である自分の思いのままになるということだ。

よし、これで細部を詰めて計画を立てよう・・・

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こ~んな感じだと思うのですが、いかがでしょう?

余計にわかりにくくなってしまってたらゴメンナサイです。

 

 

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2023年5月9日 | カテゴリー : 相続・遺言 | 投稿者 : Kazuko Kataoka