こんにちは。司法書士の片岡和子です。
東京はこのところよいお天気が続いています。
昨日は川崎市にある浮島町公園へ行って来ました。
羽田空港へ降りる飛行機を眺めながらの~んびり。
よい休日となりました。
さて。
今日は「善管注意義務」を取り上げます。
「善管注意」は「善良な管理者の注意」を略したもの。
たとえば民法644条には次のように書かれています。
第644条【受任者の注意義務】
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
これを言い換えると「受任者には善管注意義務がある」ということになるのです。
民法に現われる「注意義務」には「善管注意義務」の他に・・・
・・・の前に。
そもそも、なぜ民法には「注意義務」が定められているのか、というお話です。
これは民法が「過失責任の原則」を採用していることと関係があるのです。
「損害の発生について故意、過失がある場合にのみ賠償責任を負う」という考え方です。
じゃあ、どんな場合に「過失がある」と言えるのか、というと「注意義務があるのにきちんと注意しなかった場合」ということになります。
すると「どの程度の注意を払えば注意義務を果たしたと言えるのか?」という問題が出てきますよね。
あらかじめ決められていないと、どんな場合に賠償責任を負うことになるのかわからず怖くて仕方がありませんから。
で、委任の場合には「善良な管理者の注意」で対応しなければならない、と決められているのです。
それが民法644条、ってワケ。
じゃあ、「善良な管理者の注意」って、どれぐらいの注意なの? という話。
委任の場合「その人の職業や社会的地位等から考えて普通に要求される程度の注意」だと考えられています。
たとえば弁護士が事件処理の委任を受けた場合なら、「弁護士だったら普通これぐらい要求されるよね」ぐらいの注意義務がある、ってことになります。
素人みたいな対応をして依頼者に損害を与えたとしたら、注意義務を果たしていない、つまり過失がある、だから賠償責任を負う、ということになるのです。
もうひとつ条文を挙げておきましょう。
民法400条です。
第400条【特定物の引渡しの場合の注意義務】
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
だらだらと長いし、難しく感じられるかもしれませんが、実はそんなこともありません。
具体例で考えてみればよいのです。
たとえば、中古車を販売する契約をしたら、販売業者は引渡しまでの間、その車を保管しなければなりません。
その場合に求められる注意は「善良な管理者の注意」だと言っているのです。
民法400条はとても丁寧に書かれた条文で、その注意義務は「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」と解説してくれています。
中古車販売の場合だったら「ちゃんとした販売業者だったら普通はこの程度の注意をして保管するよね~」と世間が考える程度の注意義務がある、ってことになります。
いかがでしょう。
「善管注意義務」、少しイメージできたのではないでしょうか。
では先へ進みましょう。
民法に現われる「注意義務」は「善管注意義務」だけではないのです。
民法827条を見てみましょう。
第827条【財産の管理における注意義務】
親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。
未成年者の財産は親権者が管理します。
その場合の注意義務の程度は「自己のためにするのと同一」だと言っているのです。
自分の財産を管理する場合と同程度の注意を払いなさい、ということですね。
「善良な管理者の注意」は求められていない、ということです。
自分の子供の財産を管理する際には、税理士さんやFPさんレベルでなくてもいい、ってことを言っているのです。
他にも「固有財産におけるのと同一の注意」なんていうのも出てきますが、これは「自己のためにするのと同一」と同じだと考えてよいです。
つまり、民法では注意義務の程度について二つのレベルで考えている、ということなのです。
そして、その重い方が「善管注意義務」なのです。
二つの注意義務のうちどちらが基本なのか、というのはちょっと難しい問題です。
「善管注意義務」という物々しい言葉には「特別な注意義務」というイメージがあります。
でも、その内容は「状況から考えて『普通に』要求される注意義務」と言っていいものです。
弁護士だったら「普通に」要求される程度。
中古車販売業者だったら「普通に」要求される程度。
場面に応じて基準は変わってくるけれど、その場面ごとの「普通」が求められているのだ、と言えそうです。
私は「善管注意義務」の方が「基本」なのでは、という気がしています。
「自己のためにするのと同一の注意」は、特別に注意義務の軽減を認めたものなのでは? という気がします。
親が子供の財産を管理する場面では少し緩めてあげてもいいんじゃない? みたいに。
あくまでも私見ですが。
ところで。
高齢化社会の中、とても重要になっているのが「後見人の注意義務」です。
これについては「親族後見人も善管注意義務を負う」という記事で書いています。
ぜひご一読ください。 → こちら
今日は「善管注意義務」のお話でした。
参考になりましたら幸いです。
☆こちらの記事も読んでみてね☆
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