こんにちは。司法書士の片岡和子です。
満開のヒヤシンスをアップで。豪華♪
さて、今日は民法エッセイです。
素材は民法7条。
深読みポイントは後半に出てきます。
まずは条文を読んでみましょう。
民法第7条【後見開始の審判】
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
あ、読むのイヤになっちゃいました?
何言ってるか全然わからない?
・・・ですよねえ。
まずわからないのは「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」でしょう。
これは本当に難しいのです。
でも、今日のポイントはそこではないので、深入りはしません。
「例えば重度の認知症の人」と考えて、そのイメージで読み進んでくださいませ。
この条文は「例えば重度の認知症の人は、成年後見制度の利用ができる」と言っているのです。
制度利用の「GO!」サインが「後見開始の審判」だと考えればよいです。
決めてくれるのは家庭裁判所。
でも、家庭裁判所が勝手に認知症の人を探し出して来て審判しちゃう、なんてことはありません。
ご本人、または関係者が請求して初めて、家庭裁判所は審判を出すかどうかの審査を始めるのです。
で、その「請求できる人」を列挙してあるのが、「本人・配偶者・四親等内の親族・・・」なのです。
この、ずらずら~、っと並んでる感じも重くてイヤになりますよね。
要するに「請求できる人は限られている」ということです。
「利害関係人」などは含まれていません。
「本人のためを思って動く人」を想定しているのです。
これは、この条文に書かれているワケではありません。
民法の後見に関する部分全体を読んでみると、この制度が「判断能力の低下した人を守るための制度」であることがわかるのです。
ご本人の味方である限られた人からの請求により後見開始の審判がなされて、成年後見人が選任される。
成年後見人はご本人のために財産を管理し、受け入れてくれる老人ホームを探し、契約をし・・・
後見人は「事実行為」はしない、と言われてますけど、実際には病院への付き添いなんかもやってます。
いやいや、よく働くのですよ。
(世間では叩かれることも多いのですが、ホントにホントに頑張って働いているのでございます。)
で、ここからが今日の深読みポイントです。
「それだけでいいのか?」
という問題。
「判断能力の低下」で困っているのはご本人だけではありません。
周囲にも「困ってしまっている人」が存在することが多いのです。
たとえば「ご本人との間に紛争を抱えている人」。
争いごとを抱えて解決に向けて努力を重ねているうちに、相手が認知症になってしまった・・・
ご本人との話し合いは不可能・・・
成年後見人をつけてくれれば、後見人相手に話し合いができるのだけど・・・
自分は立派な「利害関係者」だと思うのだけれど、後見開始の請求はできないらしい・・・
困った・・・諦めるしかないのか?
・・・こんな感じです。
相続関係の紛争の場合には、何とかなることもあります。
「四親等内の親族」に該当することが多いでしょうから、その立場で後見開始の請求をすることが可能なのです。
「本人の味方」ではなくても、親族の立場でアクションを起こすことが出来るのです。
(必要な書類、例えば診断書の準備ができるのか? といった難問はありますが。)
でも、親族関係のない立場だと、お手上げになってしまいます。
(絶対にどうにもならない、とは言い切れませんが、少なくとも素人の手には余るでしょう。)
で、「これでいいのか?」という問題です。
私は日頃、「ご本人のために働く成年後見人」として活動しています。
その過程で、ご自宅から大量の督促状が見つかる、なんて事態に遭遇します。
内容を調査して、正当な請求であれば迅速に支払等をします。
これはもちろんご本人のための活動ですが、督促状を送ってきた側からすると「よかった、払ってもらえた!」ということ。
たまたま後見人がついたことで対応してもらえた、ラッキー! ってことなのです。
周囲で困っている人たちは、「たまたま後見人がつく」のを待つしかないのでしょうか。
高齢化も認知症も、避けては通れない問題です。
判断能力の低下した方を守るための制度は充実してきています。
でも、守られるべきなのは本人だけなのか?
ご本人の周囲で困っている人たちのための制度は必要ないのか?
難問です。
簡単に答えは出そうにありません・・・。
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★スムーズな相続のために⑨ 相続人の中に認知症の人がいる場合