こんにちは。司法書士の片岡和子です。
東急大井町線の尾山台と九品仏の中間地点あたりで開業してます。
今日は事案からご覧ください。
[事案]
Aは夫に先立たれて一人暮らしをしていた。
長男B、次男Cとは疎遠であった。
Aには親しくしている年下の友人Dがおり、Dは時々Aの様子を見にゆき、何かと相談にのっていた。
高齢になったAは足腰が弱ってきて外出がままならなくなった。
銀行が遠方であったため、Aは時々Dに通帳と印鑑を預けて引き出しを依頼するようになった。
AはDに預金の引き出しを依頼した都度、きちんと通帳を見て残高を確認していた。
さらに高齢になったAは、ある日、通帳・印鑑を紛失した。
この時は、やっとのことで見つけ出したものの、このことに不安を感じたAは、常時Dに通帳・印鑑を預けることにした。
その後、Aは認知症を発症し、判断能力はどんどん低下していった。
この状況に気づいた長男Bは、Aの成年後見開始の申立てをした。
自分がAの後見人に就任し、Dから通帳・印鑑を取り返して管理するつもりだった。
この動きを知った次男Cは、長男BがAの財産を独り占めしようとしているのだと疑い、Bを非難した。
BC兄弟間に争いのあることを知った家庭裁判所は、第三者である司法書士EをAの後見人に選任した。
いかがですか?
この事案は、実際の事案そのものではなく、わかりやすいようにアレンジしてあります。
そして、結局Aの後見人に就任した司法書士Eが私、というわけです。
この事案はいろいろと考えさせられます。
Aが「任意後見制度」を知っていればなあ、と思うのです。
Aはきっと、見ず知らずの司法書士E(つまり私)よりも、よく知っていて信頼できる人物に自分のことを託したかったことでしょう。
「任意後見制度」とは、判断能力のしっかりしているうちに将来自分の後見人になってくれる人と契約をしておき、実際に判断能力が低下し始めた時に、その人に後見人になってもらう、という仕組みです。
では、この事案の場合AはDと任意後見契約をしておけばよかったのかというと、そうも言い切れない気がします。
「友人」という立場は、親族からは何かと疑いの目で見られがちです。
それに、後見人の任務は責任がとても重いです。
友人だというだけでは、とても最後までは務まらないでしょう。
Aには司法書士などの専門職と任意後見契約をしておく、という選択肢があったのだと思います。
もちろん、専門家に頼むのですから、報酬が必要です。
任意後見契約は公正証書でしなくてはなりませんから、その費用も必要です。
でも、親族に頼りたくない場合などには、お金を払って専門家に頼むという選択肢はアリでしょう。
Aは、元気なうちにじっくりと、頼れる専門家を探しておけばよかったのです。
いわば「転ばぬ先の杖」として任意後見制度の利用を検討してみればよかったのです。
ところで、私自身は現在のところ任意後見契約をした経験はありません。
もしも依頼があったとしても、お受けするかどうかは場合によります。
というのも、私は現在53才です。
もしも70才の方と任意後見契約をしたとして、その方が100才まで長生きされたとしたら・・・
私は83才です!
後見人としては問題アリ、ですよね・・・。
というわけで、私自身は積極的に関わるつもりはないものの、この「任意後見制度」については知っておいていただきたいなあ、と思って記事にしてみた次第です。
参考になさってください。
【2019年9月25日追記】
この記事は2014年に書いたものです。
実は、この時点では私はまだ任意後見に実際に関わってはいませんでした。
ですので、この記事の内容は、いわば「教科書的」なものです。
その後現在までに、私は「任意後見監督人」という立場で様々な任意後見案件に関わってきました。
その状況で書いた記事は、いわば「現場からの報告」です。
下の「こちらの記事も読んでみてね」の中に任意後見関連の記事を挙げてありますが、これらのうち「任意後見と見守り契約」、「財産管理等委任契約とは」が「教科書的」なものです。
「任意後見制度の基本」を知りたい方は参考になさってください。
「任意後見制度は機能している、と感じます。」、「任意後見について考えてみたら、自分は本人の側だった、という話。」、「任意後見受任者が必ず任意後見人になれるとは限らない。」の3記事は、「現場からの報告」的なものです。
任意後見のリアルを覗いてみたい方は、ぜひ読んでみてください。
☆こちらの記事も読んでみてね☆
★任意後見について考えてみたら、自分は本人の側だった、という話。