こんにちは。司法書士の片岡和子です。
今日の東京は雨模様。
暑さも一段落、といったところです。
さて。
この頃、時々「兄弟姉妹の相続権」について考えてしまうことがあるのです。
兄弟姉妹には相続権がなくてもいいんじゃないかなあ、と。
あ、まずは現在の相続の制度がどうなっているか、ざっくりとご説明しましょう。
(法律的に正確な記述ではありません。あくまでも「ざっくり」です。)
ルールは3つ、と考えるとわかりやすいです。
①相続人となるのは配偶者と血族である
②配偶者は自動的に相続人となる
③血族の相続権には順位がある
そして、③の部分の「順位」は以下のとおりとなってます。
1 子供(子供が既に死亡している場合には孫)
2 父母(父母が既に死亡している場合には祖父母)
3 兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に死亡している場合には甥・姪)
このルールを当てはめて「誰が相続人か」を判断することになります。
いろんなパターンが現れてくることになります。
「配偶者と子供」、「子供のみ」、「配偶者と親」、「配偶者と兄弟姉妹」、「兄弟姉妹のみ」などなど。
で、何といっても大変なのが「配偶者と兄弟姉妹」のケース。
典型的な「大変なケース」を例として挙げてみましょう。
【ケース1】
高齢のAが亡くなった。
Aに子供はいない。
自宅の土地建物以外にめぼしい財産はなかった。
Aが頑張って働いて手に入れた家である。
妻Bは住み慣れた家に住み続けながら遺族年金の範囲内で何とか生活していこうと思っていた。
ところが、もう何十年も会っていなかったAの弟Cが現れた。
「自分もAの相続人であるから、遺産分けの話し合いをしよう」というのです。
Bは驚いてしまった。
「遺産といってもこの家ぐらいしか・・・」
するとCは平然と「それだったら、家を売ってそのお金を分けましょう」と言うのでした。
う~ん、考えてしまいますよね。
これでいいのかな? と。
Aがこの状況を知ったとしたら驚きのあまり顔面蒼白・・・かもしれませんね。
幽霊になって化けて出たくなるかも・・・。
Aは遺言を作成しておくべきでしたね、というのが優等生的な解答です。
「妻Bに全ての財産を相続させる」という内容の遺言をしておけば、家はBのものになったのです。
弟であるCには遺留分がありませんから、この遺言に対して文句を言うことはできません。
でも、実際には遺言を作成していないケースがとても多いのです。
理由はいろいろとあるのでしょうが、「兄弟姉妹が相続人になるとは知らなかった」という場合が多いのではないか、と私は思います。
それを「法律に無知であった本人が悪い」と言ってしまうことは簡単です。
でも、もうちょっと踏み込んで、「なぜ兄弟姉妹が相続人になるとは思いもしなかったのか」を考えてみる必要もあるのでは? と思うのです。
それは「生活の実感とかけ離れているから」なのではないか、という気がするのです。
子供のいない老夫婦が「自分が死んだら財産はすべて妻(または夫)のものになる」と考えるのは、ごく自然なことのように思えるのです。
実態に合わなくなっている法律の側に問題があるのでは? という視点も必要なのでは、なんてことを考えます。
でも、これはもちろん全てのケースに当てはまる話ではありません。
次のようなケースではどうでしょう。
【ケース2】
DとEは兄弟である。
Dは家業を継ぎ、結婚しないまま両親と共に働き、両親が年老いた後は面倒も見た。
Eはサラリーマンになったが、家に残ったDにはとても感謝していた。
やがてD・Eの母が亡くなり、父も亡くなった。
父の遺産はそれほど多くはなかった。
店舗兼自宅と少々の預金程度である。
DとEは話し合って、遺産は全てDが受け継いだ。
その後まもなくDはFと知り合い、結婚した。
EはFに会って少々の危惧は感じたものの、長年実家を守り両親の面倒を見てくれたDの幸せを考えると、それを口にすることはできなかった。
数か月後、Dは急逝した。
FはEを呼び出してこう言った。
「家業は廃業します。この家を売って、その他の財産と併せて清算しましょう。私の取り分は4分の3、Eさんの取り分は4分の1ということになります。法定相続分どおりですから問題ないですよね?」
Eは驚いてしまった。
売る? 父母と兄が大切に守ってきた実家を?
「いや、ちょっと待ってください・・・兄が大切にしてきた家を?」
「仕方がありません。財産はこの家ぐらいです。4分の1の取り分をEさんにお渡しするには売るしかありません。」
「いや、ちょっと考えさせてください。」
悩みに悩んだEの結論は「家は自分がもらう。差額は現金でFに渡す」だった。
その後、お金を受け取ったFは家から出て行き、Eは実家をリフォームして家族と共に移り住んだ。
いかがでしょう。
ドラマみたいですねえ。
Fさんは悪女だったのかな?
Eさんお金があってよかったですねえ。
高給取りだったんですねえ・・・
・・・という話ではありません。
兄弟姉妹に相続権があったからこそ、こういう結果になった、ということなのです。
もしも兄弟姉妹に相続権がなかったら、Eさんは涙を飲むしかありませんでした。
Dさんの全財産を相続したFさんは、さっさと実家を売ってしまったかもしれませんし、もしかしたら自分でリフォームして住み続けたかもしれません。
もしもFさんに連れ子がいたとしたら、最終的に不動産はその子のものに・・・なんていう展開に。
では、こういうケースのEさんのような人のために「兄弟姉妹の相続権」は存続させるべきなのか?
・・・これはちょっと考えてしまいますよね。
「ケース1」も「ケース2」も、私が勝手に設定したものです。
「ケース1」は「兄弟姉妹に相続権がなければよかったなあ」という事例。
「ケース2」は「兄弟姉妹に相続権があってよかったね」という事例。
実は、「ケース2」はかなり頑張ってひねり出しました。
つまり、「兄弟姉妹に相続権があった方がよい」と思えるような場面は、現代社会ではそれほど多くはないのでは、ということです。
それに比べて「ケース1」は、まさに「あるある」です。
これに類似した混乱はたくさん発生していると思うのです。
今、この瞬間にも。
日本全国あちこちで。
それじゃあオマエは「兄弟姉妹の相続権は廃止してしまえ!」と言ってるのか?
・・・というと、これまた単純な話ではありません。
実は、「親は既に亡くなっていて配偶者も子もいない」という方も多いのです。
その方に兄弟姉妹がいれば、「兄弟姉妹のみ」の相続パターンになります。
相続は「亡くなった方の権利と義務を引き継ぐ」ものです。
「財産をもらう」だけでなく「あとしまつ」も担うのが相続人です。
アパートを借りていた人が亡くなって、その人の身寄りが兄弟姉妹だけだったとしたら?
もしも「兄弟姉妹は相続人ではない」ということになれば、荷物の片付けは誰が行うのでしょう?
大家さんは一体誰に対して明け渡しを求めればよいのでしょう?
う~ん、考えれば考えるほど迷路に入り込んでしまいます。
・・・今日はここまでにしておきましょう。
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