勝手に深読み・民法98条の2【意思表示の受領能力】

こんにちは。司法書士の片岡和子です。

写真は多肉植物「朧月」のチビちゃんたち。

親株の葉っぱを土の上に置いておくと、こうやってちっちゃいのが出てくるのです。

可愛いでしょ♪

 

さて、このところ「勝手に深読み」と称して、民法の条文をゆる~く読んでます。

(ゆるいのに深い? 矛盾してるんじゃない? というツッコミはなしでお願いします。。。)

今日は98条の2を取り上げてみます。

何の話かというと、「意思表示」のお話です。

「意思表示」というと、「考えてることを表示することでしょ?」というイメージだと思います。

でも、法律の世界では、もうちょっと狭い意味で使われます。

深入りすると大変なことになるので、「何かしら法的な効果が発生するもの」ぐらいに考えておいてください。

たとえば、家賃滞納を繰り返してるアパートの入居者に対して大家さんが「契約を解除します」と言う場合など。

あ、今「言う場合」と書きましたが、実際には文書を郵送、ってことになるでしょう。

口頭では「言った、言わない」の争いになりがちですから。

で、問題になるのが「意思表示はいつ発生するのか?」ということ。

①大家さんが文書を作成した時?

②大家さんが文書をポストに入れた時?

③文書が入居者の郵便受けに届いた時?

④入居者が文書を読んだ時?

いかがでしょう。

①はマズいですよねえ。

大家さんの頭の中身が書面になっただけですものね。

④も問題あり、です。

「何か届いてるみたいだけど面倒くさいから読んでね~よ」なんて言われてしまったら終わり、ですから。

で、②または③かなあ、ということになるのですが、民法では③を原則にしています。

ま、そうだろうね、それが妥当だろうね、と思われるのではないでしょうか。

ところが・・・なのです。

ここからが今日の本題。

私は成年後見の仕事を中心に日々活動をしています。

認知症などで判断能力の低下した方のサポートをしているのです。

一人暮らしの方のサポートの必要性に最初に気がつくのは、介護・福祉関係の方が多いです。

ヘルパーさんやケアマネさんが訪問したら、法律事務所からのお手紙に気がついた。

これは一体何? という騒ぎになって、でも勝手に開封するワケにもいかず。

これが、大家さんから委任を受けた弁護士からの「賃貸借契約を解除します」という意思表示だったりするのです。

家賃が引き落としだったらいいですけど、振込だと認知症の方には難しく、結果として滞納になってしまうのですねえ。

こんな場合、お手紙は郵便受けに届いちゃってますから、「解除の意思表示はなされた」ということになってしまう?

認知症の入居者はアパートから出て行かなくてはならないの?

いやいや、それはマズいでしょ、ということで登場するのが今日の条文、民法98条の2なのです。

条文を読んでみましょう。

 

【民法98条の2】

意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。

 

いかがでしょう?

「対抗する」といった難しい表現も含まれていますが、簡単に言うと「意思表示したと主張できない」ということです。

この条文によって認知症の方は守られるかもしれない、と感じていただけたのではないでしょうか。

(実際には「意思能力を有しない」というのがどの程度のことを指すのか、という難しい問題はあるのですが。)

私は、この条文の出番が今後どんどん増えていくのではないかなあ、と思っているのです。

さて、とりあえず守られたとして、それからはどうなるの? という問題です。

実はこの条文には続きがあります。

読んでみましょう。

 

【民法98条の2・続き】

ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りではない。

1 相手方の法定代理人

2 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方

 

2の方はわかりやすいですよね。

意思能力を回復したのであれば、意思表示の内容も理解できるようになります。

意思表示をした側は「解除の意思表示をしましたからね!」と主張できるようになるのです。

(「行為能力者」については難しい内容なので、説明は省略。)

注目していただきたいのは1の方。

法定代理人が意思表示を知った後は、意思表示をした側は対抗できるようになる、というのです。

認知症の方の法定代理人とは?

そう、成年後見人などです。

実際の現場ではどういう展開になるのかというと・・・

法律事務所からのお手紙に気がついたケアマネさんなどが、離れて暮らす親族や行政に相談をし、その結果成年後見制度の利用につながるのです。

そして、選任された成年後見人などがその後の対応に当たることになります。

止まっていた事態が動き出す、という感じです。

大家さんの代理人の弁護士も、その後は後見人等にあててお手紙を出すようになりますから、「意思表示はあったのか? なかったのか?」といった問題は起きなくなります。

いかがでしょう。

読んだこともないよ! であろう民法の条文を成年後見の現場と絡めて語ってみました。

へえ~、と思っていただけましたら幸いです。

 

 

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2020年12月26日 | カテゴリー : 成年後見 | 投稿者 : Kazuko Kataoka