勝手に深読み・民法90条【公序良俗に反する法律行為は無効】

こんにちは。司法書士の片岡和子です。

写真はビオラなのだけど、見ていただきたいのはそこではなくて。

右半分の土の部分をよ~くご覧下さいませ。

ぽちぽち、っと何か出てるでしょ。

チューリップの芽が出てきたのです♪

寒い日が続きますが、季節は確実に進んでいるのですねえ。

 

さて。気楽でゆる~い民法エッセイです。

今日の素材は民法90条。

まずは条文を。

 

【民法第90条】

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

 

短いでしょ。

でも何だか難しげです。

「公の秩序又は善良の風俗」のことを縮めて「公序良俗」と呼ぶことが多いです。

抽象的でわかりにくい表現ですが、「社会的妥当性」の話なのです。

じゃあ社会的妥当性とは? という話になってしまいそうですが、ここは「普通に考えてOKかアウトか?」ぐらいに思っておけばよいかな、と思います。

民法90条は、社会的妥当性を欠く法律行為は無効である、と言っているのです。

具体的にどんなことなのか。

これは判例がいろいろとあるので、判例を見ていけばイメージがつかめます。

私がいつも使ってる六法にも民法90条関連の判例がたくさん載っているのですが・・・

いちばん最初に載ってる「無効とされた例」を見て、ちょっと笑ってしまいました。

「配偶者のある者と、それを知っている第三者との間の婚姻予約と、それに基づき、婚姻をし、入籍するまで扶養料を支払う旨の契約」

・・・いやいや、わかりやすいシチュエーションですねえ。

不倫相手と「いずれ妻と別れて結婚するからね。それまで生活費は払うからね。」と約束した、ってワケです。

これ、大正9年の判例です。

昔も今も、皆さん、やってることは変わらないのですねえ。。。

これって「契約」なの? と思われるかもしれませんが、立派な「契約」です。

双方の意思の合致によって成立しておりますので。

でも、この契約は民法90条により無効だというのです。

まあ、そうでしょうねえ・・・と思われる方が多いのではないでしょうか。

あ、今日のポイントはそこではありません。

「無効」ってどういうこと? という話なのです。

これが案外わかったようなわからないような・・・だと思います。

「公序良俗違反で無効」だからといって、別に警察がやって来て逮捕されるワケではありません。

社会的妥当性を欠くとはいっても、「○○罪に当たる」ということではありませんから。

(昔は「姦通罪」というのがあったようですが。)

では「こんなひどい約束をしてはならない」ということなのかというと・・・そういうワケでもないのです。

こんな約束をして、実際におカネを渡していても、本人達がそれでよいなら、別にそれでもよいのです。

周囲の人間が「それは無効な契約だから、やめなさい!」と意見してみたところで、それは単なる「意見」です。

その意見を聞き入れなかったところで、何か法律上のペナルティがあるワケではありません。

(事実上のペナルティは大いにあるかもしれませんね。「炎上」とか。)

では、この「無効」にどんな意味があるのかというと、本人達がモメた場合にハッキリと見えて来るのです。

いつまでたっても奥さんと別れてくれないし、お金も出し渋るようになった。

腹を立てた愛人が「訴えてやる!」となった。

で、実際に訴えたらどうなるか。

愛人の言い分は

「被告は妻と別れて原告と結婚する、それまでの間月額○○万円を払う、と約束しましたが、もう5か月も支払がありません。契約どおり○○万円×5か月分を払ってもらいたいのです。」

なんてことになるでしょう。

で、裁判所がどういう結論を出すかというと

「その契約自体が公序良俗に反して無効だから、被告には支払義務がない。」

ということになるのです。

いかがでしょう。

ぼやっ、としていた「無効」の意味の輪郭が、ちょっとだけ鮮明になったのではないでしょうか。

へえ~、と思っていただけましたら嬉しいです。

 

そうそう、ちょっと付け加えておきたいことがあります。

カンのいい方ならこう考えるのではないでしょうか。

「契約自体が無効だというのなら、訴えられた側は逆に『これまでに払ったカネを返せ!』と主張できるのでは?」

・・・これは認められません。

別の条文の問題になるのですが、民法には、こういう言い分を封じる規定も置かれています。

社会的妥当性を欠く契約の当事者どちらもが、法律では守ってもらえない、ということですね。

(どちらか一方が極端に悪質、という場合には例外がありますが。)

なるほど、と思っていただけましたら幸いです。

 

 

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