こんにちは。司法書士の片岡和子です。
先日から「配偶者居住権」について書いています。
今日はその3回目。
遺産分割において配偶者居住権の取得を選んだ場合には、「家を売って老人ホームへ」が出来なくなります。
アタリマエですが。
アタリマエですが、注意が必要なのです。
実際に「家を売って老人ホームへ」という流れになることは多いです。
ご本人にそのつもりがなくも、そういう展開になっていくことがあるのです。
そういう展開になって初めて「夫(妻)が家を残してくれてよかった、家は手放すことになるけれど私は老人ホームへ行ける」と感謝することになる・・・よくある話なのです。
あ、何故それが出来なくなるのか、なぜ「アタリマエ」なのか、少し説明が必要かもしれませんね。
相続で家の所有権を取得したのであれば、その家に住もうが売ろうが所有者の自由。
でも、配偶者居住権は「居住する権利」に過ぎません。
配偶者ではない他の相続人が所有権を取得するのです。
所有者でない者が家を売るなんてこと、できません。
・・・ということです。
(法律に詳しいみなさま、「他人物売買」があるじゃないか、というツッコミは無しでお願いします。そういう場面ではありませんので。)
ここで、カンのいい方は思い付かれるかもしれませんね。
「居住権も権利なんだから売れるんじゃないの? 配偶者居住権を売ればいいんじゃないの?」と。
これがダメなのです。
なぜダメなのかというと、法律で決まっているから、です。
民法が改正されて配偶者居住権の制度が新設された際に、「配偶者居住権は、譲渡することができない。」と定められました。
民法改正の際には様々な意見があったようですが、最終的に「譲渡はできない」となったのです。
そう決まった以上、それに従うしかありません。
「でも、おカネが必要になった場合には何とかならないの? 何か方法はないの?」と思われるでしょう。
これについては、全く方法がないワケではないようです。
配偶者居住権を取得する配偶者と、所有権を取得する相続人との間で、何らかの取り決めをしておくことが可能・・・である・・・という意見もある・・・のですが・・・。
何だか「・・・」が多いですね。
そうなのです。
そう簡単な話ではないのです。
「そもそも」を考えてみてください。
配偶者の法定相続分は2分の1ですが、遺産分割協議ではそれに縛られる必要はないのです。
ですから、配偶者の老後の生活を考えて「遺産は全て配偶者に」という協議をしてもよいのですし、実際そういう例も多いです。
子供たち全員が「オレたちは生活に困ってないし、家も預金も全部母さんがもらえばいいよ」と言ってる、みたいに。
でも・・・世の中には「生活に困ってる子供」もまた多いのです。
自分の取り分は何としてでも確保しようとする相続人も多いのです。
そんな場面で「配偶者の法定相続分2分の1」の範囲内で、住み慣れた家の居住を確保させてあげよう、という趣旨で誕生したのが配偶者居住権の制度なのです。
ですから、この制度を利用して遺産分割を行おう、ということ自体が既に「緊張感をはらんでいる遺産分割」である可能性が高いのです。
そんな当事者間で、例えば「配偶者が老人ホームへ入る際には配偶者居住権を放棄し、建物所有者はその対価を支払う」といった合意が簡単に出来るとは思えないですよねえ。
あ、何だか話がとっ散らかって来ましたので、まとめましょう。
①配偶者居住権を取得した者は所有者ではないのだから家を売ることはできない。
②配偶者居住権を譲渡することはできない。
③配偶者居住権をお金に換えることは不可能ではないが大変困難である。
④遺産分割で配偶者居住権の取得を希望する場合には①~③について理解しておくことが必須である。
以上、参考になりましたら幸いです。
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