法律上の意味と事実上の意味のズレ ~相続放棄の場合~

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こんにちは。司法書士の片岡和子です。

東急大井町線の尾山台と九品仏の中間地点あたりで開業してます。

 

「相続放棄」という言葉、いちどくらいは耳にされたこと、あるのではないでしょうか。

そして、法律上の正確な意味はわからなくても、何となく、イメージが湧くんじゃないかと思います。

要するに「相続」を「放棄」することでしょ、という感じで。

実際、この「相続放棄」という言葉は、「事実上の相続放棄」の場面で使われることも多いようです。

こんな具合です。

「おやじが亡くなったんだけど、財産なんて、残されたおふくろの住んでる家と貯金が少ししかないし、それは全部おふくろの今後の生活に必要なものだから、オレは相続放棄したんだ。」

何の違和感もなく受け入れられる発言ですよね。

でも、これは、たぶん殆どの場合、「事実上の相続放棄」のことを言っているんです。

つまり、お父さんの遺産の分割について、自分は何もいらない、という意思の表明をした、ということですね。

この場合、財産はもらわないことになったとしても、お父さんの相続人ではなくなった、ということではないんです。

ですから、もしもお父さんに借金があったとしたら、その借金については、相続人として責任を負うことになります。

これに対して「法律上の相続放棄」は、相続人ではなくなることです。

家も、貯金も、借金も、すべてについて権利も義務もなくなる、ということです。

法律上の相続放棄には期間の制限もありますし、家庭裁判所への「申述」が必要です。

(実際には、書類を提出する形で行います。)

「法律上の相続放棄」と「事実上の相続放棄」の違い、ご理解いただけたでしょうか。

さて、ここで気をつけていただきたいことがあるんです。

「事実上の相続放棄」をすれば済む場面で「法律上の相続放棄」をしてしまうと、ややこしい問題が起きてしまうことがあるんです。

事案に沿ってお話ししましょう

 

[事案]

Aには妻Bと子Cがいる。

また、Aには弟Dがいる。

Aの両親や祖父母は既に他界している。

Aが亡くなったが、CはBにすべての財産を引き継いでほしいと思った。

そのためには相続放棄をしなければならないと思ったので、家庭裁判所で相続放棄申述の手続きをし、受理された。

 

これは、実は大変な事案です。

法律上の相続放棄をしたCはAの相続人ではなくなります。

すると、Aの相続人はBとDの二人になるのです。

BはDと遺産分割の話し合いをしなければならなくなります。

Cとしては、Bによかれと思ってしたことが、ややこしい事態に発展してしまうことになるのです。

 

実は、この事案では、BとCが遺産分割の話し合いをして「Bがすべてをもらう」という合意をすればよかっただけなのです。

 

ここまで、なるほど、と思っていただけましたか?

でも、単純に「法律上の相続放棄は怖い」という理解はなさらないでくださいね。

借金が多くて、とても返せそうにない場合などは、早急に「法律上の相続放棄」をしなければならないこともあります。

実際の事案に関しては、直接、相続に詳しい専門家に相談してみてくださいね。

 

 

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2014年5月22日 | カテゴリー : 相続・遺言 | 投稿者 : Kazuko Kataoka