建物明渡の強制執行は公正証書ではできない。

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こんにちは。司法書士の片岡和子です。

東京は今日は暑かったですねえ~。

私は今日からスーツを七分袖のものにしました。

 

写真の路面電車的なモノは、東急世田谷線です。

今日の最初のお仕事は、世田谷線の沿線だったんです。

東急世田谷線は2両編成で、この鮮やかなカラーが特徴。

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ブルーもあります。

今日世田谷線で見かけた他の車両の色は、緑、紫、オレンジ。

全部で何編成あるのかわからないけど、たぶん、全て違う色なんだろうと思います。

 

さて、今日の話題は公正証書。

先日、

「強制執行をするには債務名義というものが必要」

というお話をしました。

→「訴訟は、債務名義を取得するための方法のうちの一つである。」はこちら

また、

「公正証書も債務名義になり得る。ただし、強制執行を受けても文句を言わない、という文言が入っていなくてはならない。」

というお話もしました。

→「債務名義としての公正証書には執行認諾約款が必要」はこちら

離婚の際に養育費などの取り決めを公正証書にしておき、執行認諾約款を入れておけば、支払が滞った際には相手の給料等を差し押さえて、強制的に取り立てることができるのです。

公正証書、すばらしい!

という感じですね。

でも、公正証書は万能ではありません。

お金の貸し借りや養育費の取り決めなどには強力な力を発揮するのですが、限界はあるのです。

例えば建物の明渡しの問題。

建物の賃貸借契約を公正証書にして、執行認諾約款を入れておくと、賃借人が家賃の支払いを滞らせた際に訴訟などをしなくても、すぐに強制執行ができます。

銀行預金等を差し押さえて、そこから直接取り立てることができるのです。

(家賃を払えない人に預金残高があるかどうかは別にして、理論上はできる、という意味です。ないものは取れない、という現実は、強制執行の場面でもありがちなのですが。)

でも、明渡し、つまり「出ていけ!」に関しては、公正証書に盛り込んでおいたとしても、すぐに強制執行をすることはできません。

訴訟等の、裁判所での手続きを経る必要があるのです。

なぜか?

それは、事の重大性と手続きの厳格性とのバランスなのだと思います。

公正証書の作成は、公証人が関与して行われますから、内容はほぼ信頼してよい、と言えます。

でも、訴訟ほど厳格な手続きで行われるわけではありませんので、「完璧な信頼性」とは言えないのです。

その公正証書にどこまでの執行力を持たせるか、というと、結局のところ

「誤りがあった場合にリカバリーができるかどうか」

ということになるのです。

つまり、お金の問題であれば、誤った根拠に基づく強制執行がなされても、損害の回復はお金ですることが可能、という考え方なのですね。

これに対して「明渡し」の問題は、住む場所という生活上の重要事項の問題なので、もしも誤った強制執行がなされてしまったら(つまり、正当な根拠もなく追い出されてしまったら)損害の回復は難しいですよね。

お金で弁償して済む、という話ではありませんから。

この考え方はいわば政策的なもので、完全に正しいのかどうかはわかりませんが、実際のところ、制度はこのようになっているのです。

 

難しいことはともかく、

「公正証書は万能ではない。明渡しの強制執行はできない」

と覚えておいてくださいね。

 

 

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★強制執行とは

★訴訟は、債務名義を取得するための方法のうちの一つである。

★債務名義としての公正証書には執行認諾約款が必要

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