こんにちは。司法書士の片岡和子です。
東急大井町線の尾山台と九品仏の中間地点あたりで開業してます。
今日は賃借権の相続のお話です。
まずは事案をごらんください。
[事案]
ある古いアパートの一室に老夫婦が長年暮らしていた。
夫が契約者となり賃貸借契約を結んでいたのだが、ある時、その夫が病気で亡くなった。
以前からこの老夫婦に出ていってほしいと思っていた大家は、残された妻に
「契約の当事者であったご主人が亡くなられたのですから契約は終了しました。出て行ってください。」
と通告した。
いかがですか?
この妻は出て行かなければならないのでしょうか?
法律的にはともかく、直感的に
「出て行かせるなんて、ひどい。追い出せるはずがない!」
と思われたのではないでしょうか。
その直感は正しいのです。
では、法律的に説明してみましょう。
アパートの賃貸借契約をした、ということは、このアパートの「賃借権」という権利を得たことになります。
「賃料を払って居住する権利」を得た、ということですね。
そして、この権利は、契約した人が死亡しても消滅しないのです。
この、消滅しない「賃借権」には財産的な価値があり、権利を持った人が死亡した場合、その人の相続人が受け継ぎます。
死亡した人の預貯金などと同様に、相続の対象となるのです。
「賃借権も相続財産である。」ということです。
さて、この事案で、残された妻は死亡した夫の相続人です。
妻は夫の賃借権を相続します。
ですから、妻はそのまま、このアパートに住み続ければよいのです。
もちろん、家賃はきちんと払い続けなければなりません。
もしも
「契約は終わっているのだから、家賃は受け取れない」
なんて言われてしまった場合には、「供託」という手続きをすれば大丈夫です。
供託をすれば、家賃をきちんと払ったのと同じことになります。
ところで、「相続人」って、一人とは限りませんよね。
この事案で、夫婦に子がいたとしたら、その子も相続人となります。
すると、このアパートの賃借権は妻と子が共同で相続することになります。
アパートに住んでいたのは老夫婦のみで、子は別居していた場合でも、アパートの賃借権は自動的に妻のものになるわけではありません。
そんな場合はどうするかというと、妻と子で「遺産分割協議」をして、
「アパートの賃借権は妻が取得する」
という合意をすることになります。
そうずれば、妻は単独で、アパートを借りる権利を持つことができます。
もしも、こんな事案が身近で起こったのを見かけたら、ぜひ、
「あなたは出て行かなくていいんですよ。」
と教えてあげて、弁護士さんなどに相談するよう助言してあげてくださいね。
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