成年後見制度に「巻き込まれた」のだとしても。

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こんにちは。司法書士の片岡和子です。

アジサイの季節が始まりましたねえ~。

楽しみです。

 

今日は成年後見制度のお話です。

最近、以下のようなケースに遭遇することが多くなりました。

(実際にあった複数例をミックスして「典型的なケース」として構成し直したものです。)

 

Aさんの父親Bさんは認知症で、数年前から老人ホームに入所しています。

Bさんの自宅は空き家。管理が大変です。

老人ホームの支払いはBさんの通帳からの引き落としになっています。

年金収入よりも支出の方が大きく、蓄えを取り崩しながら支払う状態になっています。

このままだと、いずれ預金は底をつきそうです。

そこで、AさんはBさんの家を売ることにしました。

知り合いの不動産業者に頼んで買い手を探してもらったところ、数か月で買主が見つかりました。

よかった、これで何とかなる。

定期的に空き家を見に行く必要もなくなるし、とAさんは心からほっとしたのでした。

そんなある日、不動産業者から連絡が入ります。

「Bさんは認知症なので、契約書にサインができません。成年後見制度を使うことが必要です。」

「セイネンコウケン? 何だそれは?」

とAさんは驚きました。

「とにかく、急いで成年後見の申立てをしてください。このままだと決済ができず、買主さんに大変なご迷惑をおかけすることになります。」

Aさんはよくわからないまま、それでも、何とかいろいろと調べてBさんの後見開始の申立てをし、AさんはBさんの成年後見人になりました。

Aさんはいろんな書類に

「B成年後見人A」

とサインして、家の売買は無事完了しました。

それから数か月後、多忙なAさんのもとに家庭裁判所から手紙が届きました。

「報告書を提出せよ。」

というものです。

報告書?

何を報告するんだろう?

Aさんは疑問に思いましたが、忙しさに紛れて放ったらかしにしたのでした。

するとある日「調査人」と名乗る司法書士から連絡があり、

「Bさんの財産の管理状況について調査します。Bさんの通帳その他関係書類を持って当職事務所へお越しください。」

というのです。

Aさんは仰天しました。

何かとんでもないことになったらしい・・・。

 

さて、いかがでしょうか?

Aさんが気の毒だと思われますか?

このお話での私の立場は「調査人であると名乗る司法書士」です。

Aさんにお会いして事情をお聞きすることになります。

Aさんの言い分は

「父親の家を売らなければならなかった。そのためには成年後見人になるしかなかった。」

「後見人になったら定期的に家庭裁判所へ報告をしなければならないことなど知らなかった。」

といったものになります。

「こんな面倒なことになるなら家は売らずに別の方法を考えたのに。」

「こんなことになるとは誰も教えてくれなかった。」

「私はいわば『巻き込まれた』ようなものです。ある意味被害者です。」

とまで仰る方もおられます。

私も、お話を聞きながら気の毒になってしまうことがあるのは事実です。

成年後見制度について、事前にもっと丁寧な説明をすべきである、という議論もあるかもしれません。

でも、「そもそも」を考えてみていただきたいのです。

AさんはBさんに「よかれ」と思って家の売却を進めました。

息子として、父親のために一生懸命動いたのでしょう。

でもBさんの家はBさんのものです。

家を売るかどうかは、Bさんが自分で決めなければならなかったのです。

Aさんには、そもそもBさんの家を売る権限はなかったのです。

では、Aさんは一体どうすればよかったのか、というと、やはり成年後見制度を利用するしかなかったのだと思います。

ただ、「後見人になる」ということは大変な責任を伴うものなのです。

家の売却が終わったらそれで終わりなのではありません。

Bさんがご存命である限り、きちんと財産の管理を継続し、家庭裁判所へも定期的に報告をしなければなりません。

「自分の親なのに?」

という声が聞こえてきそうですが、親であろうが何だろうが関係はありません。

Aさんは、このことをきちんと理解しておくべきでした。

「そんなのムリだったよ・・・」だとしても、今後は理解をして、家庭裁判所の指示に従う必要があるのです。

あまり深く考えずに「親の家を売ろう」と思い立つ方は多いようです。

この記事が、そんな方々の目に留まればいいなあ、と思います。

 

【2019年11月6日追記】

この記事を書いてから3年以上が経ちました。

読み返してみて、ちょっと気になることがあるので追記をします。

もしかしたら「成年後見制度はよくない、避けるべき」という文脈で読まれてしまうかも、ということなのです。

この記事の主眼はそこにあるのではありません。

「ご本人の財産の処分はご本人が決めなければならない」ということを言いたかったのです。

「成年後見制度の利用は避けたい、事前に対策をしておきたい」と考えることに何ら問題はありません。

ただし、「それがご本人の意思であり、ご本人が決めるのであれば」です。

節税対策のあれこれ、家族信託の利用、さまざまな「事前対策」が流行っているようですが、それらについても同じです。

「決めるのはご本人である」ということから外れてはならない、と思います。

 

 

☆こちらの記事も読んでみてね☆

★成年後見人はなぜ相続税対策ができないのか

★成年後見制度の利用を完全に確実に回避する方法は・・・ない。

★民事信託(家族信託)と後見制度は排斥し合うものではない

★成年後見制度は相続争いと結びついてしまうこともある。

 

 

2016年5月24日 | カテゴリー : 成年後見 | 投稿者 : Kazuko Kataoka