【配偶者居住権】①「当然の権利」ではない。

こんにちは。司法書士の片岡和子です。

早速ですが、今日の話題は相続問題。

「配偶者居住権」です。

民法が改正されて新しく設けられた制度です。

たくさんの専門家の方々が解説をされていますし、ネット上で情報を入手することは容易だと思います。

今さら私が何か書かなくても、なのですが・・・ちょっと気になることもありまして。

「配偶者居住権」という言葉の「いかにも」な分かりやすさからでしょうか。

きちんと理解されないままイメージが先行してるのかな? と思う場面があるのです。

「主人が亡くなったのですが、私はこの家にずっと住めるってことですよね?」といった発言をする方がおられるのです。

相続の相談に来られて、「家は当然自分のものになるのだから、その他の預金などを子供たちと分ければよいのですよね?」などと仰るのです。

私は「いえいえ、そういうワケではないんですよ。」と言いつつ、一生懸命ご説明をすることになります。

確かに、一定の条件を満たせば、亡くなった方の配偶者は家に住み続けることができます。

でもそれは「当然にそうなる」のではなくて、「遺産分けの話し合いをする際の選択肢が増えた」ということなのです。

(遺言の場合・家庭裁判所での調停や審判の場合の説明は今日は省略します。ややこしくなりますので。)

高齢のご主人が亡くなって、相続人が高齢の奥さんと子供二人だったとしましょう。

遺産は2000万円の家と2000万円の銀行預金。

遺言がなければ、遺産分けの話し合いをすることになります。

そこで奥さんが「住み慣れた家が欲しい」と希望した場合、それだけで法定相続分に達してしまいます。

(法定相続分は奥さんが2分の1、子供たちが4分の1ずつです。)

家を奥さんが取得して、預金を子供たちが1000万円ずつもらう、ということになりますね。

奥さん自身に十分な資産や年金等があれば問題ありませんが・・・

資産は殆どなくて、年金額が少なく、生活していけない・・・ということが往々にして起こります。

こんな場合に「家をもらう」のではなく「配偶者居住権をもらう」という遺産分けができるようになったのです。

配偶者居住権は「居住する権利」ですから、家そのものよりも価値は低くなります。

仮に配偶者居住権の価値が1000万円だったとしたら、この奥さんは居住する権利に加えて預金のうち1000万円を取得することができますね。

そうすると、奥さんは家に住み続けながら、1000万円を生活資金にすることが出来るワケです。

この場合、残った遺産は「居住権がくっついていて自分では住めない家(価値は1000万円)」と「銀行預金1000万円」になります。

これを子供たちで分けることになります。

長男は家の所有権、次男は1000万円、みたいに。

家をもらった長男は、奥さんが生きている間は自分で住むことはできませんし、売ったりすることもできません。

でも、奥さんが亡くなった後には完全に自分の自由になりますから、住むなり売るなりすればよい、ということになります。

ここで再確認です。

「相続人全員が合意すれば、このような遺産分けをすることが可能になった」ということなのです。

配偶者居住権は「当然に与えられた権利」ではないのです。

それからもう一つ、確認をしておきたいことが。

相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる遺産分けをしても構わないのです。

この例で言うと、「家も預金も全部奥さんがもらう」でもOKなのです。

実際にそういう内容の遺産分割をする例も多いのだと思います。

でも、そうはいかない例もまた多いのだと思います。

世の中、「母さんが生活に困らないように、父さんの遺産は全部母さんがもらってね」では済まないケースもまた多い、というのが実情なのだろうな、と思います。

 

 

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2021年1月24日 | カテゴリー : 相続・遺言 | 投稿者 : Kazuko Kataoka