成年後見人の報酬のこと。【2019年8月追記あり】

こんにちは。司法書士の片岡和子です。

 

専門職に後見人になってもらうと報酬を支払わなければならない、ということをご存じの方も多いと思います。

ご家族の判断能力が低下して成年後見人が必要だけど忙しくて対応できない、精神的な負担が大きい、などの理由で、専門家に後見人になってもらうことを考えた時に、さまざまな疑問が生じてくると思います。

まず、「報酬は誰が払うの?」という問題。

ご家族が負担しなければならない、と思っている方もおられるようですが、そうではありません。

成年被後見人(判断能力が低下しているご本人のことです)の負担になるのです。

具体的には、成年後見人が、預かって管理している財産の中から受け取ります。

「え? そうなの? 勝手に受け取るの? それってコワくない? やりたい放題ってこと?」

と感じられたかもしれません。

ご心配にはおよびません。

勝手に報酬を受け取れるわけではないのです。

成年後見人は、定期的に家庭裁判所に報告書を提出します。

通常は一年に一回提出します。

その際に「これだけきちんと財産管理等をしたので、報酬を付与してください」と申し立てるのです。

すると、裁判所が、「報酬として○○円を受け取ってよろしい」という決定をするのです。

ですから、報酬の受け取りは、きちんと働いてからの後払い、しかも裁判所がきちんとチェックしてから、なんです。

少し、イメージが出来てこられましたか?

でも、次に気になるのは「実際にいくらぐらいかかるの?」ということでしょう。

「いろいろと比べてみて、値段の安い人に頼めばいいんですよね?」ともお考えになるかもしれません。

そうはいかないのです。

法定の成年後見は「契約」ではないのです。

(任意後見は「契約」ですが)

成年後見人は家庭裁判所が「選任」するのです。

成年後見人は裁判所が選任し、裁判所の監督下にあるものなのです。

ですから、報酬の額も家庭裁判所が決めます。

普通の契約のように当事者が自由に決定することはできません。

実際の金額をどのように算定するかについても、明確な基準は示されていません。

「報酬のめやす」を示している家庭裁判所もありますが、まったく何の手ががりも示していない裁判所もあります。

ご家族にとっては、「???」という話でしょう。

実は、我々専門職にとっても、後払いである上に、報酬額が前もってわからないのは、ちょっとツラいところなんです。

「それじゃあ、見通しが立たない、せめて、1万なのか、10万なのか、100万なのか、イメージだけでも」

とおっしゃる方のために、

「本人の財産の内容に応じて月額2万円~6万円が目安、仕事内容が難しかった場合は、その上に加算されることもある」

というイメージだけ、お伝えしておきます。

 

【2019年8月10日追記】

この記事は2014年2月13日に書いたものです。

この頃には、後に「専門職後見人の報酬」がこれほどバッシングを受けることになるとは思っていなかったです。

今日は、現状について私が考えていることを正直に書いてみようと思います。

 

まず、前提として確認しておきたいことがあります。

医療機関に支払うおカネや、介護サービスの利用料として皆さんが支払っているおカネは、「サービスの対価」とイコールではありません。

「3割」だったり「1割」だったりを負担しているのですよね。

その「負担額」だけで医療や介護の世界が回っているのではない、実際には払ったおカネよりもはるかに大きな仕事が行われているのだ、ということを再認識していただきたいのです。

専門職後見人の報酬は、医療費や介護費とは違って保険の制度などはありません。

つまり、専門職後見人が働いたら、働いた分の「10割」を支払っていただかなければ、この世界は回らない、ということです。

 

ここから先は、事例を挙げてお話します。

事例は、私が担当した案件そのものではなく、アレンジを加えてあります。

実際の事例をそのままで使うことはできませんので。

「事実そのものではないけれど、限りなく真実に近い話」としてお読みください。

 

Aさんは糖尿病の悪化と認知症の症状により、在宅独居の生活が限界となっていました。

今後の施設入所契約等で成年後見人が必要になる、というケアマネさんの判断で後見申立てがなされ、私が後見人に就任しました。

専門職が後見人になったのは、配偶者もお子さんもおられず、他の親族にも適任者がいなかったからです。

後見人への就任後は東奔西走の日々。

ジェットコースターのような展開となりました。

入所先探し、入所手続き、物品の手配、退去した部屋(ほぼゴミ屋敷)の片付け・・・

Aさんが入所先で何とか落ち着いたと思ったら、今度は体調不良で入院・手術。

退院して老健へ入所、そこで落ち着く間もなく再入院・再手術。退院後また老健へ。

その後、新しい入所先を何とか見つけて入所。

これがちょっと遠方で、私がAさんにお会いしに行くのは一日仕事となりました。

これで落ち着くかなあ、と思ったら他の入居者さんとトラブルが頻発。退去を要請されました。

短期入所施設へ一時滞在を続けながら行き先探し。

結局、さらに遠い場所に新設された特養へ何とか入所が出来て、でも、その後・・・

・・・こうやって書いてみても、なかなか伝わらないかもしれません。

できることなら当時の業務日誌をここへ貼り付けてお見せしたいぐらいです。

 

さて、報酬の話です。

このAさんの案件での私の年間報酬は24万円ほどで、「割に合わない仕事」の典型でした。

Aさんの財産は数百万円でしたので、報酬算定の基本である「月額2万円」が適用されたのだと思います。

特に困難があった場合には加算を請求することは可能なのですが、私にはそれができませんでした。

Aさんは年金が少なく、手持ちの数百万円を取り崩しながらやっていかなければならないため、追加の報酬をいただく気にはなれなかったのです。

 

次に、Bさんのケースをご紹介しましょう。

Bさんの後見開始申立てのきっかけは、財産管理の必要性でした。

簡単に言うと、「Bさんが認知症のため銀行でお金をおろせなくなり、Bさんのお金で生活をしていた家族Cが困ったから」です。

Cは、自分がBさんの成年後見人になるつもりでした。

でも、申立てを受けた家庭裁判所は、Cを不適任であると判断しました。

Bさんの周囲の親族たちの間では、既に相続争いの前哨戦が始まっていて、Cもその関係人のうちの一人だったからです。

そこで専門職である私が後見人を引き受けることになったのです。

後見人に就任してからBさんが亡くなって後見が終了するまでの間、私はこの家族の激しい争いに晒され続けました。

精神的にかなり消耗してしまい、このままいけば病気になるかもしれないな、という状態でした。

ただ、Bさんご本人のために動かなければならない場面は少なかったため、この案件に費やした時間はそれほど多くはありません。

 

ここで報酬のお話です。

私がBさんの案件で受け取った年間報酬は72万円ほどだったと思います。

もう少し多かったかもしれません。

Bさんの財産は「億単位」でしたので、「月額6万円」を基準に計算されたのだと思います。

Bさんの家族からすれば「通帳を預かってるだけなのに何十万円も取られるなんて!」という話になるわけで、さぞかし悔しかっただろうと思います。

 

いかがでしょう?

こんな感じなのです、現場は。

後見人の、ご本人への関与の度合いや態様は様々で、千差万別です。

でも、報酬額は「管理財産の多寡」を基準として決められてきました・・・これまでは。

このような報酬決定のあり方が激しい非難を浴びることになり、見直しが行われることになったのです。

 

この問題を別の側面から見てみましょう。

「片岡和子司法書士事務所」の経営、という側面です。

Aさん・Bさんを同時に担当していた時期、私は「Bさんの案件の後見報酬で事務所を維持しつつ、Aさんの案件はボランティアだと割り切って対応する」という態度で乗り切りました。

Aさんのような案件だけだと、事務所経営は成り立ちません。

Bさんの案件の報酬があったから事務所は存続できて、結果としてAさんは専門職後見人による援助を受けることができた、と言えるのです。

この状態のことを、私は密かに「後見人の報酬を通じた所得の再分配」と呼んでいました。

実際、そんな面があると思われませんか? 良い悪いは別として。

 

話を続けましょう。

 

世の中は、Bさんのようなケースに対して「通帳を預かってるだけで月額6万円? けしからん!」という反応をします。

そのような声に応える形で、仮に「管理財産額には関係なく基本報酬は2万円。特に困難な事情があった場合には加算を検討する」と基準を変更したら何が起きるのか。

私は、Aさんのようなケースへの後見人就任をお断りするかもしれません。

Aさんのようなケースに真面目に取り組んでいたら事務所の経営が成り立たなくなるからです。

どの案件も「年額24万円」と決まっているのだったら、その範囲内で仕事をすれば足りる案件だけを引き受ける、ということです。

そんな態度を世間はさらに非難するでしょう。

そうなれば、私は「成年後見の仕事そのもの」から手を引くことになるかもしれません。

「専門職後見人として活動する」ことは「仕事」として成り立たない、と判断して、見切りをつけるかもしれないです。

 

ここまで、現在の私が考えていることを正直にお話しました。

今後この問題がどうなっていくのか、まだ見えてきません。

今のところ書けるのはこのあたりまで、といったところです。

 

【2019年9月1日追記】

現在、このブログの成年後見ジャンルの過去記事の見直し・追記を少しずつ進めています。

見直しをしようと考えるに至った経緯などを「成年後見ジャンルの過去記事の見直しを進めていこうと考えています。」という記事に書いています。

ぜひ読んでみてください。 → こちら

 

 

☆こちらの記事も読んでみてね☆

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2014年2月13日 | カテゴリー : 成年後見 | 投稿者 : Kazuko Kataoka